episode-11
ハノイにひとつしかない。
あなただけのための空間とひととき。
カフェでは日本文化の紹介をかねて、絵を飾っている。日本人なら誰でも知っている有名な絵が多い。
著作権をもっている機関に許可を取り、データを借りる。使用料もお支払している。データを製版し、一枚ものの印刷物を作る。これを日本画などを装丁している方にお願いし、ハノイに持ち込んでいる。
カフェで借りている家は、日本家屋と比べると一回りも二回りも大きい。おそらくヨーロッパの影響を受けていると思われる。したがって、絵を飾る壁のスペースも広い。
本物と同じサイズの絵を飾ると間のびしてしまう。ベトナム人のお客様が見ていただく時のインパクトも考慮して、大きめのサイズにして飾ってある。
次のような解説文をつくり、アルバムに入れ、手に取って読んでいただけるようにしている。
解説文にはありがとうカフェなりのアレンジを加えている。日本にある解説本にある注釈を紹介してもあまり意味がない。どんな絵を飾ったらいいのかも多いに悩む。
絵と解説文でベトナムのお客様に「伝わるのか?」。
例えば、この男の浮世絵。解説文は次のとおり。
160 年前のかっこいい男?
鯉はベトナム、日本とも、とても身近な淡水魚です。
ありがとうカフェのすぐ近くに公園があります。
朝の散歩に出かけると、いつも決まった場所で、鯉を売っているベトナム人女性たちがいます。
みなさん元気がいい。大きな鯉を包丁でドーン ドーンとぶつ切りにしています。
会う度に「xin chao」とあいさつをするので、もう顔知りです。
みなさん、朝から一生懸命です。おそらく、ベトナム人のみんなさんにとって、鯉は貴重なたんぱく元として、なくてはならない魚だったのでしょう。
写真をみてください。
「ca kho (カ コー)」「ca hap (カ ハップ)」「lau ca (ラウ カ)」など、有名な鯉の料理がたくさんあります。
ベトナムのテトの時に食べる「ca kho (カ コー)」は日本人が食べても思わず「ngon qua ゴン クアー」です。
日本には、「鯉の滝登り」という言葉があります。
おそらく、中国から来た言葉だと思います。
滝に向かってたくさんの鯉が登って行こうとする。
何度チャレンジしても滝を登って行ける鯉は少ないと思われます。
それでも諦めずに鯉は挑戦し続けます。
こうしたことから日本では、「鯉の滝登り」という言葉が、「立身出世」することの例えになっています。
絵をみてください。
巨大な鯉を捕まえて、持ち上げている男が描かれています。
滝を登っていく巨大な鯉を捕まるために、川の中に飛び込む、びっくりするような巨大な鯉を捕まえた男の顔は「どうだい」といった自慢気な顔をしています。
川に飛び込む男の勇気と鯉との格闘。
実はこんな巨大な鯉は日本にはいません。
この絵を描いた浮世絵師、豊国の誇張です。
鯉を大きく描くことによって、スペックタルでドラマチックな画面になっています。
160 年前の日本人はこの絵を見て、「かっこいい!!」「俺もあんな男になりたい」と思ったようです。
絵に描かれいる、川に飛び込んだ男は江戸時代にどこにもいた大工さんです。絵の左側に「六三」と名前が書いてあります。
当時の日本人にとってとても身近な大工さんだからこそ、俺もあんな風になりたい!とみる人の気持を引き付けたのだと思われます。
160 年前、ハノイを流れる song hong(ホン川)に潜り、巨大な鯉と格闘し、「えいっ!」と鯉を持ち上げたベトナムの若い男性がいたかもしれません。
さて、どんなかっこいい顔をしたでしょう。
男の横に女の浮世絵が飾ってあります。解説文を読んでください。
これが 100 年前の美人。これは今なら、タレントのポスターです。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」。このことわざは日本でとても有名です。美人を花にたとえています。
ベトナム語では、芍薬の花のことを hoa thuoc duoc、牡丹の花のことを hoa mau don、百合の花のことを hoa ly と言います。
ベトナムにも同じ花があります。
右の写真をご覧ください。
立っている時は、Aの写真のよう。
座っている時は、Bの写真のよう。
歩く時は、Cの写真のよう。
みなさんどうですか?
カフェの壁に飾ってある絵を見てください。
美人の前に寒牡丹 (hoa mau don) と百合の花(hoa ly)が描かれています。
先ほどに説明した「ことわざ」を「前提に絵が構成」されています。
さらに、その後ろには、赤やピンクの花を咲かせる梅が描かれています。
日本では、梅は春を告げる花とされています。
美人は襟巻をしています。底冷えする寒いときに、梅を添えて、春を思う。
花言葉は「上品」、「高潔」、「忍耐」、「忠実」。
梅を添えることにより、この美人の精神性も表現しています。
100 年前の究極の美人。目、鼻、小さな唇、結った髪の額あたりはとても艶っぽい。
赤い簪がとても印象的です。
ありがとうカフェには、日本で発売されているファッション誌が毎月届きます。
今の日本の美人を代表するモデルがたくさん掲載されています。
ちょっと見比べてはいかがでしょうか?
二つの絵をみながら、、、。
素敵なベトナムの女性が、ありがとうカフェのお茶を飲んでいただける。
二つの絵をみながら、、、。
ベトナム人の恋人同士が、かき氷を食べながらひとときを過ごしていただける。
二つの絵をみながら、、、。
若いベトナムの男性が、もの思いにふける。
こうした時を提供できたら、、、。
商品を提供するだけではなく、カフェでどんな時間を過ごしていただけるのか?
どんな空間を提供できるのか?
ありがとうカフェでは、いつも考えています。